新型コロナウイルス感染症に伴う休校措置による子ども・保護者の心理と8つのリスク

新型コロナウイルス感染症に伴う休校措置による

子ども・保護者の心理と8つのリスク

~子どもたちや保護者の心の健康と安全が脅かされる可能性と対策について~

 

2020年3月3日発信

2020年4月8日更新

2020年5月7日更新

 

和光大学教授・博士(心理学) 

菅野 恵(KANNO Kei)

公認心理師・臨床心理士

元公立学校スクールカウンセラー

 

安部首相は,新型コロナウイルスの感染拡大により,2020年3月2日から全国すべての小学校,中学校,高等学校などに春休みまで臨時休校とするように各自治体に要請しました。その後,2020年4月7日から5月6日までとされていた緊急事態宣言が5月31日まで延長され,多くの学校が休校措置も延長となりました。

 

そこで,被虐待児の心のケアやスクールカウンセリングの研究者の立場から,子どもが学校へ登校できないことで,子どもたちや保護者の心の健康と安全が脅かされる可能性について8つのリスクに言及したいと思います。


1.大人の不安の高まりが子どもの不安を高めるリスク

東日本大震災と異なることは,直接的に「目に見えない」「数値で測れない」ことによる混乱です。

 

地震や津波といった事実があれば子どもはまだ理解しやすいですが,年少者であればあるほどウイルスという言葉と現在の混乱がつながりません。

 

また,

・専門家の見解もさまざまで何が正しくて何が間違っているかわからない。
・政府の唐突な休校措置の要請で混乱している。
といった,見通しのつかなさが,大人の不安を助長しています。

 

子どもからすると,保護者を含めた大人の不安が子どもに伝わっています。

大人のゆとりのなさは,子どものメンタルヘルスに大きく影響します。

 

しかし,大人の不安がすぐに解消できないこともあります。

 

大切なのは,保護者が子どもの前で不安をあおる言動をしないこと,TVやネット・SNSなどに流れた混乱した情報を子どもに直接的,間接的に与えないこと,自宅の雰囲気を緊迫させないこと,です。


2.子どものイライラ,攻撃性のリスク

子どもたちは,学校での学習や体育,部活動などでエネルギーを発散しているわけですが,休校措置がとられたことでこれまで学校で発散されてきたエネルギーは,どこに向かってしまうのでしょうか?

 

家庭でエネルギーをうまく発散することに慣れていない子どもは,攻撃性として内罰的行為や外罰的行為として向かってしまうことも想定されます。

 

以下,一例になります。
・内罰的行為:自分を傷つける行為(自傷行為)。
・外罰的行為:SNS(LINE,Twitterなど),オンラインゲームなどを介した他者への攻撃。家庭内暴力(親やきょうだいへの暴言,暴力)。

 

適切にエネルギーを発散させるための工夫として,小学生までであれば親子で一緒に運動したり,中学生以降だったら散歩やジョギングなど体を動かすことで心身のバランスを保つことになります。

 

1日最低1回は外で体を動かす機会を持つようなルーティーンを作れるとベストです。


3.ゲーム・スマホ・ネット・TV依存のリスク

時間のコントロールが子ども任せだと統制できず,ゲームやテレビ,スマホ,ネット,TVをやめさせようとすると,子どもの乱暴な口調が増えたりイライラが募って攻撃的になることもしばしば起こりやすくなります。

 

その根拠として,「ゲーム障害」の症状が参考になります。

WHO(世界保健機関)は,国際疾病分類であるICD-11に「ゲーム障害」を加えました。

 

国立病院機構久里浜医療センターによる調査では,ゲーム障害によって「朝起きられない」「昼夜逆転」「物にあたる・壊す」などの問題を明らかにしています。

 

そのため,今回の臨時休校をきっかけに子どもの自由な時間が増え,ゲームなどへの依存度が高まり,親子間のトラブルが増えることを懸念しています。


また,保護者が子どもを叱ることをあきらめ子どもが自由にふるまったり,ルールを守らせようとすることに疲れてしまうかもしれません。

 

さらに,昼夜逆転生活は,不登校のきっかけにもなります。

2020年4月以降の新学期に昼夜逆転で登校できなくなるといったことにならないように,生活リズムのバランスにも気をつける必要があります。

 

大切なのは,親子で決めたルールを厳守するということと,ゲームなどの脳への悪影響について子どもへしっかり説明することです。

 

ゲーム障害によって脳に異常な反応が見られることがわかっています。

特に前頭前野の働きが悪くなり,感情や行動の制御が鈍るとされています。

 

親子で正しい知識を共有して,依存状態に陥らないように注意しましょう。

<参考サイト>

NHK健康ch

「やめられない怖い依存症!脳に異常が起きるゲーム障害の症状、治療法」

(2019年10月17日)

(※久里浜医療センター樋口進院長のコメントが掲載されています)


4.子どもが愛情不足になるリスク

一人で自宅に過ごすことに慣れていない子どもは,寂しさから愛情不足になることも十分考えられます。

 

保護者から満たされてこなかった欲求を学校で補ってきた子どもも多数います。

学校で自分に注目してくれたり自分を認めてくれる友だちや教師からの存在に支えられてきた子どもは,特に欲求を満たされる場がなくなるため要注意です。

 

学校以外で自分を認められたいといった「承認欲求」が高まり,LINEなどでの交流が活発になることで言葉の行き違いによるトラブルやLINEいじめなども危惧されます。


女子であれば,一種の「パパ活」のような異性に愛情を求める現象が低年齢化する恐れもあります。

ネットを介して裸の画像や動画を送ってしまうなどの性被害も小学生高学年からすでに起きています。

 

子どもの愛情飢餓状態をいち早く察知できるのは,保護者だけです。

愛情不足のサインをいつでもキャッチできるように,子どもの言動に反応してあげましょう。


5.保護者がイライラするリスク

在宅勤務や時短勤務で働く保護者は,生活リズムや仕事のペースが乱れ,ストレスを抱えがちになります。

 

ふだん自宅にいない夫がずっと自宅にいることで妻のペースが乱れ,家庭内不和の一因になることもあります。

(退職した夫が自宅にずっといるようになって夫婦の距離感が変化するのも同様です。)

 

また,自宅で仕事をすることで子どもが騒いでいて集中力が続かず効率が悪くなることもしばしばです。

 

専業主婦やパートの母親は,子どもが学校へ登校している時間帯にこなしてきたことが思うように進まなくなります。

 

日ごろからストレスにうまく対処(コーピング)する習慣がある保護者はまだよいですが,ストレスをため込んでしまう保護者は特にイライラが子どもへ向かいやすくなります。

 

つまり,攻撃性が子どもへぶつけられてしまうのです。

暴言や暴力などの子どもを虐げる行為に発展する可能性もあり,今回を機に児童相談所への通告相談対応件数が一気に増加することも考えられます。


そこで,自宅で仕事をしなければならない保護者は,可能であれば早朝(もしくは夜)子どもが寝ている時間帯に集中して仕事を行うこともおすすめです。

 

また,母親は特に「密室育児」にならないためにも,保護者同士でLINEなどで情報交換しながら交流を持ったり,ときにはデリバリーで食事をとるなどして,息が詰まらないように「風通し」をよくする工夫も必要です。

 

試行錯誤しながら模索する状況が続くかと思いますが,

・メリハリを持たせる。

・環境を変えて気分転換する。

といったことを意識しながら保護者もイライラをためないようにしていきましょう。


6.子どもをネグレクト状態にさせるリスク

スクールカウンセリングの事例では,保護者の帰宅をひとりで22時近くまで待ち,TVを観てお菓子を食べながら空腹をしのいでいる子どもにも出会います。

 

子どもたちは,学校で給食をあたりまえに食べていましたが,昼食をしっかりとれない子どもが急増するのではと危惧しています。

 

実は,学校の夏休みなどの長期期間中というのは,ネグレクトを被る子どもにとって過酷なのです。

 

また,学校で教師が子どもの不調に気づいて養護教諭がケアを行うことも学校ではあたりまえの光景ですが,保護者不在の自宅で,子どもが自分の不調に気づけなかったり不調を放置するような「セルフネグレクト」,子どもが重症なのに保護者が病院に連れて行かない「医療ネグレクト」も起きやすくなります。

(医療機関をむやみに受診しないといった呼びかけは,子どもの「医療ネグレクト」を助長させます。)

 

さらに,昼食をおにぎりやパンなどで簡易的に済ませる日々が続くと,栄養不足や栄養バランスの偏りが心配されます。栄養がとれないと,心のエネルギーも低下します。

 

学校関係者や子どもの支援関係機関は,ネグレクトが心配されるハイリスク家庭に目を配り,危機感を高める必要があります。


7.「保護者不在の子ども」を狙った被害のリスク

通常,学校がある平日では日中に子どもはいないわけですが,「平日に子どもが自宅に一人で留守番する子どもが急増」することになります。

 

そこで心配なのが,一人で留守番している子どもを狙ったセールス,勧誘などの電話や訪問などの被害です。

 

最近では大学生をターゲットにUSBメモリに収められている教材を50万前後で売りつける商法で被害に遭う学生が多発しています。

 

・知らない番号の着信電話やインターホンには出ない。
・契約を交わさないことを徹底させる。

 

など,家族で被害に遭わないための意識を高めておくことが予防的対策になります。


8.学校が存在するのに行けない,卒業式ができないことによる「喪失体験」のリスク

喪失体験とは,身近な人を失うといった体験の意味で使われますが,実は場所や機会を失うことも喪失体験になり,メンタルヘルスが低下します。

 

特に,学校が存在しているのに行けないのは,専門的には「あいまいな喪失」(Ambigurous Loss)とされ,卒業式でしっかりお別れができないことは「別れのないさよなら」(Goodbye without Leaving)になります。

 

いずれにしても,今回の臨時休校によって,子どもたちが学校という場や学校でのさまざまな機会を喪失していることに大人は気づくべきです。

 

またこれらの喪失体験を当事者で共有することが重要ですので,家庭や新たな進学先,新学期を迎えた学校などで,喪失体験をシェアリングする時間を持つことを提案します。

行政,子どもの支援機関などの関係者の方へ

今回の臨時休校措置で特に配慮したい家庭は,以下の通りです。

 

・児童虐待の疑いがもたれている家庭
・過去に児童虐待が生じて再虐待のリスクがある家庭
・ひとり親で周囲に頼る人がいない家庭

・障害を抱えた子どもがいて育児に疲弊している家庭

 

これまで学校側で子どもや家庭の異変に気をつけながら対応してきたハイリスクの家庭については,子どもが登校しないことを機に学校の目が行き届かなくなります。

 

また,あらゆる障害を抱えた子どもがいる家庭では,家庭での負担度が一気に高まります。

 

たとえば自閉症スペクトラム障害などの子どもたちの中には,行動パターンが急に変化したことで子どもが混乱し,心理的に不安定になり家庭で問題行動を起こすことも想定されます。

 

ハイリスクの家庭は,この臨時休校期間に電話などで状況を把握し,専門家による訪問相談などのアウトリーチを重視するなどして,教育行政主体で支援を強化すべきです。

 

そのためには,国からの指示を待つのではなく,各自治体の長が主導して子どもの安全を守るための対策や姿勢を明確にし,具体的で独自の支援を行うことを期待します。


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研究者仲間の明星大学准教授 藤井靖 氏の記事が,Abema TIMESで発信されています。

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